2008年の5月、阪神タイガースがこの年のセ・パ交流戦用ユニフォームを発表した。交流戦の始まる一週間ほど前にお披露目されたこのユニフォームを見て、度肝を抜かれたプロ野球ファンは多かった。
私もそのひとりだが、度肝を抜かれ、そのあとはただただ唖然としたのを憶えている。
いわゆる最新の布地印刷技術を駆使したユニフォームで、胸マークの背景には黄色のぼかしが入り、タイガースの代名詞でもある縦縞にはグラデーションがかかり、上下で消えていくデザインになっていた。さらに胸マーク、背番号、背ネーム、虎の袖章、そしてスポンサーのマークに至るまですべて印刷で、唯一、背中についているNPBマークのみが従来の刺繍だった。
球団では、このユニフォームをライトコンポと呼んでいる。
あとで各方面から聞いた話によると、実はこの年、阪神球団では2005年から、毎年作っていた交流戦用ユニフォームを製作する予定はなかったそうなのだ。
しかし「今シーズンもやって欲しい」と現場から声があがり、急遽製作することになったという。
ところが本来、新しいデザインのユニフォームを製作するには数ヶ月の期間が必要だ。従来のやり方では短時間で作り上げるのは不可能だった。そのため導入されたのが、刺繍などの手間が省ける最新技術の布地印刷だったという。
製作を担当したメーカーは、印刷で製作する以上は、その技術の粋を集めた形にしようと考えたのだろう。その結果出てきたのが、ぼかしやグラデーションといった印刷ならではの表現を駆使したデザインだった。
その気持ちや意気込みは分からないでもないのだが、どうも技術に目が行き過ぎてデザイン的には空回りという感じになってしまった。
実際、伝統の縦縞が消えていくデザインに激怒したOBもいたそうだし、当時の岡田彰布監督も納得のいかない様子だったという。胸マークのTigersの文字もしわになってしまうし、伝統球団のユニフォームに印刷はふさわしくない。球団としてはそういう結論になったようだ。
ただ唯一、赤星憲広選手には、軽快に動けるということで好評だったそうだが、機能と風格、どちらをとるべきかは難しいところである。
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