プロ野球のユニフォームで、最も伝統のスタイルが確立されているのは、阪神タイガースのホーム用だ。1935年の球団創設以来、胸マークのTigersのロゴ書体は大きく変わることなくキープされてきた。
ただし長い歴史の中では、この書体が外された時期もある。戦時体制下の1940年にアルファベットの使用が禁止となり、そのときには漢字の阪神という文字が胸マークとなった。そして戟後の物資不足の時代には胸マークがない一時期もあった。
しかし、じきにTigersのロゴ書体が復活する。その後はずっと変わらずキープされてきたのだが、2007年のセ・パ交流戦でその伝統が一時的に途切れることになった。
交流戦がスタートしたのは05年だが、そのときから阪神球団は専用のユニフォームを採用してきた。05、06年の2年間は、70年代の復刻ユニフォームが採用されたが、07年は服飾デザイナーのコシノヒロコ氏にデザインを依頼する。
胸マークは伝統の書体ではなく、筆記体にヒゲのついた書体が採用されていた。この新書体はそれより以前の05年に登場した球団創設70周年マークなどにも使用されていたので、球団サイドでこの書体を使ってみたいという要望もあったのだろう。
MLBには70年以上ユニフォームのデザインを変えないチームがいくつかあるが、伝統のスタイルは意識してキープされるのと、無意識にキープされる2つのケースがある。
無意識のキープというのは、ユニフォームのデザイン自体に興味がなく、そのまま何年もの時間がたってしまったというケースだ。一方、意識してのキープは、そのユニフォームの伝統スタイルの価値に気がついていて、この形を守っていかないといけないと意識して残されるケースだ。
無意識のキープから意識して残していくケースの問には過渡期がある。ユニフォームのデザインに興味のなかった球団が目覚めて、ユニフォームを意識するようになると、まずは手を入れたくなる。ここで自チームの伝統のスタイルにまで思い至ればよいのだが、たいていは突飛なデザインに変更してしまう。この交流戦のユニフォームを見ると、そういう時期だったのかなと思ったりする。今はこんなことはしないと思うが、伝統の書体が一時的にせよ途絶えたのは残念だった。
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